私は幼い頃から母に、命を助ける看護師さんの素晴らしさを聞かされて育ちました。幼稚園を卒園する時「将来は看護師になります」と言った言葉どおり、この仕事に就くために勉強してきました。神戸の病院に就職が決まっていたのですが、阪神淡路大震災で先延ばしになってしまった、その時友人からいわくら病院に誘われ、お世話になることになりました。
じつは精神科を選ぶことについては迷いがありました。母からはいつも「人の命を救う人になって」と言われていたので、もっと救命の現場に近いような場所に行かなければいけないんじゃないかという思いが、常にありました。そんな時、中途半端だった私の目を覚まさせてくれた、あの事件が起こったのです。
それは作業療法に行っていた患者様が、病棟に帰ってきた時のことでした。突然脳こうそくを起こしたその方が、転倒してしまったんです。私は足が震えて一歩も動けませんでした。みんながわーっとその方のところに行って、処置するのを見ながら、私は何一つできませんでした。
人の命を助けたいと思って選んだ仕事なのに、その場に直面した時、何もできなかった。その事実は私を打ちのめしました。でもそれを私は、内科の病院に行けばよかった、いわくらに来たのが間違いだったんだっていう風に、問題をすりかえてしまったんです。
「内科に行って勉強しなおします」。師長と主任に言いました。その時に師長がおっしゃった言葉が忘れられません。
「いま、あなたの目の前に、援助を求めている方たちがいるじゃない。その方たちのことはどうするの」。
・・・ああ、そうだった。目の前の患者様から逃げ出して、私はどこへ行こうとしていたんだろう。いま、ここでできることをしなければ、どこへ行っても何もできないままだ。
ふわふわと宙に浮いているようだった自分の心が、このいわくら病院という場所に、ぴたりとおさまった瞬間でした。
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