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コラム「ひめくり」 | 採用情報 | 京都 いわくら病院 医療法人稲門会 精神科 老人介護保健施設(老健)訪問看護

アルコール治療

コラム「ひめくり」

No.2「『飲めない』のではなく『飲まない』という選択」(職員)

 皆様の中には、普通に毎日飲んでいる人がたくさんいる中で、自分よりひどい飲み方している人はもっといると思いながら、なんで自分だけ依存症と言われてお酒を止めなければならないんだと思う方がいらっしゃると思います。止めようと思っているのにそこらじゅうで安い値段で売っているから買ってしまうという方もいらっしゃると思います。そういう環境でお酒を止めることは本当に難しいだろうなと思っています。

 

 私はお酒を飲まない選択を随分前にしました。なぜそう思ったのかは、お酒に振りまわされている自分に対して本当に嫌気がさしたからだと思います。酔った自分は素面の自分とは違う行動を取ることや、記憶自体が無くなることもあって、翌日に酷い二日酔いで目が覚めて、しんどくて一日中寝て過ごしていることに罪悪感を持ったり、飲みすぎたことに対して自己嫌悪に陥るのです。なのに、今日は買わないでおこうと思っていてもつい買ってしまったり、「イライラしているからストレス発散したい」「今日はほどほどに飲むから大丈夫」などと色々理由をつけて、飲酒欲求を抑えられない自分をごまかして同じことを繰り返していました。家族や周りにもあきれられていたと思います。小さい頃から母親の飲酒で嫌な思いをしていたのに、自分も同じことをしていました。そんな自分に本当に嫌気がさして、もう止めようと心底思えたから飲まない選択をしたのだと思います。

 

 断酒をしているからといって、イライラすることやストレスが無くなるわけではありません。酒飲み友達に誘われることもあります。何もすることがない暇な時間もあります。でも、そんなストレスや誘いや、ただ単に暇だと言う理由で飲む自分ではないという変なプライドを持つようになりました。そのプライドって意外と大事なのかなと思います。今も断酒を続けているのは「飲まないと決めた私がそんな事ごときで飲むわけない」というプライドのおかげかもしれません。断酒を続けていくことで、罪悪感や自己嫌悪が無く正々堂々としていられることが、何だか清々しくていいなと感じたり、周りとの関係に良い意味で変化がありました。飲んでいた頃は、酔わないと言いたいことが言えないと思っていたのですが、聞く側からすると、相手が酔っている時点で話をまともに聞く気持ちにはならないため、分かってほしいと思うことは、酔わずに話すことが大切なのだと実感しました。素面で過ごしていると、身体もすっきりしているためか色々と何かすることへの選択肢が増えてきて、飲まない方が意外と楽しく生活ができることにも気づきました。後は何故かだんだんと気持ちが前向きになってきて、諦めていたことや、新しいことにチャレンジしようという思いになりました。今までの自分じゃ無い自分と出会うことができた気がします。

 

 周りから言われてお酒を止めるということは、自分の生きがいや楽しみを急に奪われるような気持ちになり、余計にお酒が欲しくなるため、本当に難しいと思います。辛い時に助けてくれた、心の支えになっていたと思っているお酒を、自分から取り上げたらどう生活していいのか分からないと不安に思っている方もいらっしゃると思います。しかし、皆様の中には、お酒を止めるつもりはないという思いを持ちながら、心のどこかで止めないといけないかな、止められるのなら止めたいなという思いもあるのではないでしょうか。私は、自分自身で止めると決意することでお酒と距離が置けるのではないかと思います。そのきっかけ作りに入院という方法があるのだと思います。なぜ入院することになったのかを振り返ることができれば、様々なプログラムに出席することで「よし、止めてみよう」と思えるきっかけが掴めるのではないかと思います。そして、自助グループに出席することの必要性や大切さがわかってくるのではないかと思います。

 

 私は私は、お酒に憑りつかれた生活を続けて、だんだんと社会から孤立し、病院しか居場所が無くなるような人生は送って欲しくないと思っています。皆様のそれぞれの才能や魅力をお酒で失って欲しくないと思っています。この入院を機に『飲めない』のではなく『飲まない』という選択をしてもらいたいと切に願います。病棟は離れましたが、いつまでも皆様を応援しています。

 

 

No.1「無題」(入院されていた方)

 成人してお酒を飲むようになって以来、楽しく飲んできたし、お酒を飲む場でなければ会えない人とも会えたし、楽しく話す中で親しく大切な存在になる人達とも出会えました。
 身体的な不調、気持ちの落ち込み、職場への迷惑、家族への負担というデメリットばかりが増えていってもお酒を飲むことをやめられなかったのは、楽しかった事、嫌な気持ちをお酒でまぎらわせてやりすごしてきた事の記憶を忘れられなかったからだと思います。

 

 入院中にいろいろな人の話を聞いたり、お酒が人間に与える害の知識を得たことで、私が今まで作り出した「飲む理由」が消えていきました。そして、飲まずに過こした3ヶ月は、とても充実して快適でその間にできた仲間や知り合いには、それまでにできた飲み友達よりずっと心の奥まで話すことができました。お酒で無駄にした時間は取り戻すことはできないけれど、せめてこれからは毎日を大切に有意義な時間を過ごしていきたいと思います。

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