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神秘の森
京都の北部、市内からそれほど遠くない場所に由良川の源流がある。
源流といっても川は穏やかで、かつて林業が栄えた頃のトロッコの朽ちたレールが、せせらぎに沿って森の奥へと続いている。ここは神秘の森だ。
10トントレーラーでないと運べないような巨木が、嵐で流されて川の真ん中に横たわっている。
凍る冬に崖から落ちて息絶えたのだろう。骨だけになったイノシシが道端に横たわる。
静かに、森の世代交代がおこなわれている。
みどりを映す水面に大きなアマゴの魚影がゆっくり動く。
川岸に下りてみると、清流は氷水のように冷たい。
ふかふかの苔の上に腰かけて、おむすびをほおばり
持ってきたストーブで湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
トチやブナの森にかじかの鳴き声が心地よい。
時間が、ゆっくりとせせらぎに溶け込んでいく。
空高く、ノスリがゆっくりと弧を描きながら、風をつかまえている。
ノスリの目に、自分の姿はどんな風に映っているのだろうか。
少し疲れた足で、西日の差す森の道をたどる。
自分がただの生き物になって、森の一部になる感じがして、
頭はただ空っぽで、心が満たされていく。